シラミ講座 1
かつて日本に多くいたアタマジラミは、第二次世界大戦後、有機塩素系の殺虫剤DDTの大量散布によりほとんどいなくなりました。しかしその後、安全性や環境への影響を理由に1971年に殺虫剤としてDDTの製造は中止になりました。ちょうどその頃、海外交流が盛んになり、アタマジラミが日本に持ち込まれたことから、アタマジラミは再び増えはじめ1980年にその発生はピークを迎えました。
当時はアタマジラミに使用できる薬剤がありませんでした。そこで、厚生省(現厚生労働省)の指導により開発されたのが、ピレスロイド系殺虫剤※のフェノトリンを主成分とした「スミスリン®パウダー」でした。
1981年に発売され、80年代後半にはアタマジラミはいったん減少したのですが、90年代に入って再び、小学生や幼稚園児、保育園児の間で増加し始めました。シラミを知らない世代が親になり、子どもの頭に感染しているアタマジラミに気づかないため、感染が拡大したと推測されています。シラミ駆除剤の市場から推定すると、2010年代には子どもを中心に50万人以上の感染者が発生していたものと思われます。
シラミが増えたわけ
コロナ禍でアタマジラミは激減するも、行動制限解除以降は増加の一方。
令和2年(2020年)に新型コロナウイルス感染症拡大防止のためソーシャルディスタンスの確保が求められ、人と人との間の接触機会が減少してシラミの感染経路が絶たれたことにより、アタマジラミの感染者は激減しました。令和4年(2022年)の感染者はピーク時の実に4分の1から5分の1程度になったと推定されます。
ただし、行動制限が解除された令和5年(2023年)からは急に感染者数は増加に転じており、増加の勢いはコロナ禍以前に戻りつつあります。子どものアタマジラミ感染の早期発見につとめ、シラミ駆除薬を適切に使用するなど、感染拡大防止の対策が必要です。
コロナ禍で感染者数が激減したわけ
※ピレスロイド系殺虫剤
ピレスロイドとは、天然の除虫菊乾花から抽出された殺虫成分“ピレトリン”と、これによく似た化学構造を持つ合成化合物の総称です。ピレスロイド系殺虫剤は哺乳類に対する毒性が弱く、殺虫性に優れています。
シラミとスミスリン®の歴史
アタマジラミは、おもに髪の毛の接触によって感染するため、子どもたちが体や頭を寄せて遊ぶ場所、たとえば幼稚園、保育園、小学校の低学年などの集団で発生します。集団の場で感染して、家で兄弟・姉妹に感染することもあります。また、気をつけなければならないのは、子どもと接触する機会の多い母親に感染した場合です。せっかく子どもが治ったのに、また母親から子どもに再感染する、いわゆるピンポン感染する事があります。
そのほか、塾、スイミングスクールなどで感染することもあります。スイミングスクールの場合、プールの水を介して感染することは確認されていませんが、ロッカーや脱衣籠にシラミが落ち、次に使用した子どもに感染することがあります。またタオル、クシ、ブラシの共用でもうつります。
不潔だからといって、アタマジラミに感染するのではありません。感染が小学校低学年の児童や幼稚園児、保育園児に多く見られるのは、頭や体を寄せ合って遊ぶ機会が多いためです。だれでも感染する可能性があり、毎日洗髪していてもうつされないとはかぎりません。
アタマジラミはなぜうつる?
頭の接触や、頭に触れるものの共用
幼稚園、保育園などで、頭を寄せて遊んだり、昼寝の時などに髪の毛が接触することで感染することがあります。
また、タオルやブラシなど、頭に触れるものの共用でもうつります。
なおコロモジラミは人間同士の接触で感染しますが、最近日本ではほとんど発生していません。
近所でアタマジラミがはやったら
子ども一人でシャンプーさせずに、時々は点検も兼ねて、大人がしっかりと、髪を洗ってやってください。きちんと洗髪することでアタマジラミを減らすことも期待できます。
お風呂やプールなどに入ったときは
子どもの頭をしっかりチェックし、クシ・ブラシやバスタオルの使い回しをしないよう言い聞かせましょう。水の中では、シラミはしっかりと毛につかまる習性があるため、うつることはまずないと考えてよいでしょう。
下着、シーツ、枕カバーなどは
洗濯前に60℃以上のお湯に5分以上つければ、付着している幼虫・成虫・卵は死滅します。(衣類乾燥機の使用も効果があります)
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